当園では根圏栽培法(隔離ベッド栽培)を採用しています。
トマトは同じ場所で連続して作ると「連作障害」が起きる典型的な作物です。
かと言って大きな鉄骨で出来たハウスを動かすことなど出来ず、次の作付け前の「土壌消毒」は次の年の収益に大きく影響することから大変重要な作業となっています。当園では土耕栽培により「春トマト」(※1)を過去50年作ってきましたが、春トマトは休耕期間が夏から秋まで3ヶ月ほどあることからその間に土壌消毒(太陽熱還元消毒)を行うことで「連作障害」を回避してきました。
それでも病気が全く出ないということはありませんでしたが、収益に影響が出るほどではありませんでした。しかし、現在栽培している「越冬トマト」(※2)は休耕期間が初夏の約一ヶ月しかありません。クロピク、黒蜜、エタノール等、いろいろ試しましたが、夏に植えたトマトが年明けまでに半分になってしまったり散々な被害に遭いました。
連作被害回避の土壌消毒で一番大切なこと。それは地温がなるべく高いときに消毒期間(休耕期間)を長く取ることです。表面から20センチ下の地温を40度として積算で1000度必要というデータがあります。たった一ヶ月で土壌消毒を完璧に行うのは無理なのです。そこで思いついたのがシートで土壌から根を隔離する「隔離ベッド栽培」です。
トマトの根は地中1メートルくらいまで伸びる作物のため地中深くまで短期間に消毒を行うことは難しいですが、根域をシートで制限することで部分的な消毒(地下50センチ程度)で間に合います。また、トマトの食味アップにつながり、市販のトマトや他の生産者、他の地域のトマトとの差別化が図れることもメリットです。
特に「フルーツトマト」と呼ばれる高糖度栽培に適しています。
「根圏栽培」は水分と肥料を各種トマトの生育に合わせてピンポイントで投入することにより糖度UPと食味UPが期待出来ます。
大玉の桃太郎をはじめ、フルーツトマト類は、土耕栽培の時に比べ、糖度が上がるとともに味が濃くなったと評判を頂いています。
施肥と潅水にはOATアグリオのTT750を使用しています。
電磁弁を8系統まで拡張することが出来るのと各系統に合わせた水分調整、肥料調整、当日のNPK投入量データの確認が容易に出来ます。
PF値、EC値のモニタリング機能があり、積極的に活用しています。
また、連作による土壌病害を回避出来るので計画的な収量を確保することが出来ます。
反対に日射量や気温の急激な変化に合わせた水分、肥料のコントロールにとても神経を使います。
昔ながらの勘や見た目で判断することも重要ですが、各種センサーを用い、データとして目に見える形で記録できることは近年の物価高での経費削減やこれからの近代農業に重要な役割を担うことと思います。
計画的な栽培技術を確立するため、最新のIT技術の投入を積極的に行っています。

根域制限?
なにそれ?

根域制限(こんいきせいげん)栽培法は簡単に言えば、
名前の通り植物の根の領域を制限して余分な水分や
その植物にとって有害な微生物を寄せ付けず、
根に関わる病気から守る栽培法のことよ。

へぇ。なるほど。
で、具体的にはどうやるの?

果樹は重機を使って大掛かりな工事が必要だけど、(栃木県農政部→果樹の盛土式根圏制御栽培法)
トマトのような施設栽培なら作付け前に予め「遮根透水シート」を
栽培ベッドの下に埋め込む方法や「樽栽培」があるわ。

簡単そうだね。

そうね。言葉では簡単よね。
日射量(MJ)や水分(PF)、EC値、流量計など各種センサーと制御盤で
システム化されてるものもあるのでお金をかければ簡単にできそうね。
でも実際には経験と勘が必要。

でもそれをやればトマトが簡単に甘くなるんでしょ?

そうね。
単純に「簡単」とは言えないけど、果樹やトマトなどの糖度をあげる近道にはなるわね。

甘くなったり病気から守れたり
いいことばっかりで魅力あるね。(^。^)

デメリットもあるのよ。

えぇっ!?

最初に言ったけど、まずは最初に「お金と労力」がかかること。
第二に樹に相当なストレスが掛かるので天候や気温に合わせて水分や養分を微調整したりする知識が必要。
夏はトマトは水分が少ないと「尻腐れ」が出たり果肉の中に緑の斑点が出来たり生理障害が多発するのよ。
カルシウム、ホウ素、マグネシウムなどの微量要素不足を根だけでなく葉面からも吸わせるなど細やかな管理が必要。
水分が少ないからとPF値を上げると根の領域が少ないので「根腐れ」を起こしがち。
上手く行けば味が濃くて美味しくなるけど、病気に対して抵抗が弱くなったり枯れてしまったり、同時に実が小ぶりになるので収穫量を上げるためのノウハウが必要。(T_T)

それじゃ、採算が合わないね。

そうね。
でも、味は間違いなく甘くて美味しくなるので、差別化、ブランド化して高単価で売ることのできる販売力も必要ね。

簡単だと思ったけど、なかなか難しいんだね。
でも試してみる価値はありそうだね(*^^*)
いつも詳しく教えてくれてありがとう^^;

いえいえどういたしまして(^^)
※1.「春トマト」とは秋口に定植し翌年2月頃から6月の梅雨入りまでを収穫期間とする栽培型
※2.「越冬トマト」とは8月に定植し10月頃から翌年6月中旬くらいまでを収穫期間とする栽培型
【補足】
トマトの作型は主に春、越冬、半促成、夏秋、抑制と5系統に分別されるが特に寒い冬を乗り越える「越冬型」は寒暖の差が激しいことから一番旨味がのる美味しいトマトの栽培に適している。